田中壱征監督×森山良子 エピソード
主題歌「家族写真」森山良子さんと田中壱征監督の制作奇跡の秘話
田中壱征監督は2017年10月、釜山国際映画祭において初の長編映画「TokyoLoss」で「釡山広域市議会友好作品」を認定授与、またアジア国際映画祭では正式出品作品としてノミネート受賞されました。
そして帰国後、すぐに映画「See You Again」(当時の題名)の原作プロット第2稿を書き上げました。
人生最後の瞬間、余命宣告をされて亡くなっていく側と、人生と絆のバトンタッチをされる側に、「崇高な永遠の愛」が生まれることに焦点を当てた脚本。
田中壱征監督は、この映画の主題歌は森山良子さんの歌声にしたい!!と思いながら最終稿を書き上げ、2008年からお世話になっていた音楽プロデューサーの日吉孝夫さん(元シンコーミュージック)に相談をし、MSエンターテインメントの田中芳雄社長を通し、森山さんに映画企画書並びプロットを提示しました。
数日後、事務所から早速連絡が来ました。
代々木上原の、とある昔ながらの喫茶店。
「この映画の脚本内容でしたら、この楽曲を提供します。
しかも“森山良子さんご本人が一番愛している楽曲”を聴いて下さい」と、事務所代表からお言葉をいただきました。
その場ですぐに、田中壱征監督はイヤフォンを取り出し、楽曲「家族写真 オーケストラバージョン」を聴きました。
楽曲と映画の内容、エンディングがあまりにもマッチしていて、田中壱征監督の頭に様々なシーン、情景が浮かび上がりました。
自然に涙が溢れ出し、楽曲が終わる最後まで涙を止めることができませんでした。
「この楽曲に見合う映画製作を、必ずや頑張って参ります!!」田中壱征監督は、深く深くお辞儀をしました。映画主題歌が決まった日となりました。
その後、田中壱征監督は、全て日々を映画製作準備にかけました。
映画の題名を「ぬくもりの内側」と新しく表わします。
2019年5月にクランクインすることが決定し、2020年3月にクランクアップ。
2021年に映画が完成した時、まず初めに、お世話になった音楽プロデューサーに報告をと思い連絡をすると、日吉さんが心筋梗塞で緊急入院していました。
田中壱征監督は、真っ先に千葉県の病院へ駆けつけました。
日吉さんは、カテーテル手術によって一命をとりとめ、しばらく養生をすれば治って行くと。
病室で田中壱征監督は、日吉さんにこう述べました。
命が助かった日吉さんに言わなくてはいけないことがあります。どうか、聞いていただけますか…
私は産みの母親に対し、産んでくれたことにはとても感謝していますが、実際、母親とは縁がない人生でした。
でも、母親が形見のように残してくれたものが一つあったんです。
それは、森山良子さんのカセットテープなんです。
私の人生の中で母親とは縁がなかった分、その分、カセットテープが擦り切れるまで、私は森山良子さんの歌を当時、聴いていました。
まさか、その森山良子さんの主題歌が決まり、映画「ぬくもりの内側」が完成までたどりつけたことに、改めて、奇跡と感謝を日吉さんに言いたかったんです。日吉さん…本当にありがとうございました!」と。
日吉さんは無言のまま、右手で涙を隠していたようです。
病室には、とても優しい夕陽が差し込んできて、全てを見守ってくれているような時間でした。